Keyboard ALT + g to toggle grid overlay

米国水利再生利用局

重要インフラの保護にリアリティ キャプチャと 3D モデリングを活用

創造の未来

事例をシェアする

画像提供: 米国水利再生利用局

ハイテク ツールでグレン キャニオン ダムの未来に繋がる基礎を築く

アリゾナ州のグレン キャニオン ダムは、米国西部地域の生活に欠かせない水資源と電力を供給しています。しかし、建造から半世紀経った今、老朽化と異常気象に起因する水量の変動によって、ダムは大きなダメージを受けています。水利再生利用局は、ダムの状態を評価して未来の世代のために保護しようと、リアリティ キャプチャと 3D モデリングを活用することにしました。この米国行政機関の手法から、世界中の重要なインフラの維持に新しいテクノロジーがいかに役立つかをご覧ください。

デイビッド・ウィンスロー氏(右)とグレン キャニオン ダムの発電施設。写真提供: 米国水利再生利用局/オートデスク

米国西部に水と電力を供給

アメリカ連邦議会は、灌漑による乾燥地の「再生」を目的に、1902 年に水利再生利用局を設立しました。同局は現在、西部 17 州にわたって 492 基のダムを管理し、3,100 万人以上の住民に毎年 10 兆ガロンもの水を供給しています。再生可能な水力発電を行う機関としては米国第 2 位であり、毎年 400 億キロワット時の電力を供給しています。

しかし、設立から 1 世紀を過ぎ、同局の任務に変化が生じました。米国西部の地域生活を維持することに加え、歳月による荒廃から管理対象の資産を守る必要も出てきたのです。ユタ州ソルトレイクシティの水利再生利用局 CAD マネージャ兼土木エンジニアのデイビッド・ウィンスロー氏は、次のように述べています。「このダムは、国にとって非常に重要な施設です。私たちは、この先何百年も使い続けていく大事なものの管理を任されているのです。私たちがいなくなっても、この施設は存続し、適切に運用、維持されなければなりません」

デイビッド・ウィンスロー氏(右)とグレン キャニオン ダムの発電設備。写真提供: 米国水利再生利用局/オートデスク

インフラの維持: グローバルな課題

グレン キャニオン ダムは、1950 年代から 1970 年代にかけて、世界中でダム建設がブームとなっていた頃の 1963 年に完成しました。当時は毎年 1,000 基ものダムが建設されていました。その中にはエジプトのナイル川に建設されたアスワン ハイ ダム、日本の黒部ダム、インドのイドゥッキ ダム、ブラジルのイルハ ソルテイラ ダム、スイスのコントラ ダムなどがあり、それらはみな世界の各地で電力と水の供給と治水に役立っています。

その頃は、こうした大規模なインフラ プロジェクトに利用できる CAD は、まだ生まれていませんでした。世界最大級のコンクリート製ダムであるグレン キャニオンは、「計算尺と三角関数表を使って設計されました」とウィンスロー氏は説明します。「図面はすべて、製図台を使って手書きで起こされたのです」と彼は述べます。頼りになるのが紙の平面図と青焼きだけでは、ダムの現状に関する老朽化、天候、水量の劇的な変化などの影響について、限られた分析情報しか得られません。

この問題はグレン キャニオンに限った話ではありません。世界には 58,000 基を超える大規模ダムがありますが、世界銀行の調査によれば、その半数以上が、稼働開始から 50 年以上経過しています。ダムのメンテナンスと耐久性向上のための優れたツールを用意することが、世界の課題であるのは明らかです。

1960 年代のグレン キャニオン ダム。写真提供: 米国水利再生利用局

「施設の管理に膨大な量の 2D 図面を使う方法から脱却する必要がありました。グレン キャニオンのためには、ダム、峡谷の壁、ダムの上流の貯水池エリア、発電設備の内部と外部を含む総合的な 3D モデルがどうしても必要でした」

— デイビッド・ウィンスロー氏、米国水利再生利用局、CAD マネージャ兼土木エンジニア

 

ダムの老朽化を診断する新しいテクノロジ ツール

水利再生利用局は、構造体の詳細な 3D デジタル モデル、つまり「仮想的」なグレン キャニオン ダムを製作するのに最適なツールと技法について、オートデスクに相談しました。3 次元データでは、2D 図面ではわからない奥行きや背景状況がわかります。またデジタル データは変化を加えることが可能です。昔の青焼き図面のように、時間が止まったままになることがありません。デジタル モデルを更新したり、新しいシナリオでシミュレーションを行ったりできるほか、元のデータセットがどう変化するかを何世紀も先まで測定することができます。

3D モデルがあれば、豊富な新しい機能セットによってグレン キャニオン ダムを管理・維持し、これによって、現在のダメージの発見、診断、修復を簡単に行えるだけでなく、将来のダメージを予測し、防止することも可能になります。

しかし、CAD がない時代に造られた構造物のコンピューター モデルをどうやって作成したらよいのでしょう。その答えが「リアリティ キャプチャ」です。

「施設の管理に膨大な量の 2D 図面を使う方法から脱却する必要がありました。グレン キャニオンのためには、ダム、峡谷の壁、ダムの上流の貯水池エリア、発電設備の内部と外部を含む、総合的な 3D モデルがどうしても必要でした」

— デイビッド・ウィンスロー氏、米国水利再生利用局、CAD マネージャ兼土木エンジニア

 

大規模施設の大量データをキャプチャ

リアリティ キャプチャでは、オブジェクトに関するさまざまなデータ(外観、サイズ、形状、位置)が収集され、コンピューター モデルにコンパイルされます。水利再生利用局は、同局の科学技術プログラムの資金を利用してオートデスクと契約し、必要なデータを収集して 3D モデルを製作しました。職員たちも現場に立ち会い、プロセスと手順を把握しました。2016 年 8 月、同局とオートデスクは現場の図面を作成するために、「LiDAR」と呼ばれるレーザー ベースのスキャナ技術、音波探知機、カメラを使用して、ダムのデータのキャプチャリングを開始しました。

オートデスクのチームはダムとその周辺のスキャンと写真撮影を行いました。膨大な作業量のため、1 日に 12 時間作業しても、まる 1 週間かかりました。キャプチャしたのは、水力発電設備の内観と外観、ダムの上流側と下流側の壁面、ダムの最上部、周囲の環境、さらにビジター センターの一部も含めた画像と計測値です。地表、貯水湖、空間から、高度なツール セットを使用して 700 もの LiDAR スキャン画像を収集し、何千もの写真とビデオを撮影しました。

写真提供: 米国水利再生利用局/オートデスク

ウィンスロー氏(左)の監督のもと、プロジェクト チームはレーザー スキャナを使用して、ダムと峡谷の壁の高精度 3D 計測値と画像をキャプチャしました。

1/6

LiDAR と呼ばれるレーザー ベースのテクノロジは、光のパルスを放出し、そのパルスが対象物に反射して戻ってくるまでの時間を計測する方法で、巨大なダム施設の測定値をキャプチャします。

2/6

パウエル貯水湖では、オートデスクの技術パートナーである e-Trac 社が遠隔操作探査機(ROV)を使って音波探知機を操作し、ダムの湖底をスキャンしました。

3/6

オートデスクのチーム メンバーは、救護ヘリコプターからオーバーラップした景観を航空写真で撮影し、「写真測量法」と呼ばれる手法で 3D のデジタル モデルに変換しました。

4/6

オートデスクのチーム メンバーは、カメラを搭載したドローンを使用して、メイン発電室の見上げるように高い室内をスキャンしました。

5/6

オートデスクのチーム メンバーは、カメラを搭載したドローンを使用して、メイン発電室の見上げるように高い室内をスキャンしました。

6/6

写真提供: 米国水利再生利用局/オートデスク

Autodesk ReMake を使用して作成されたグレン キャニオン ダムのモデル

データをデジタル モデルに変換

グレン キャニオンのスキャンにより、見事な画像と、数百万ものフォトリアリスティックな 3D 点群の貴重なデータ点がキャプチャされました。撮影した写真を、「写真測量法」と呼ばれる手法で、オーバーラップした画像として合成することにより、フォト モデルが作成されました。未処理データはすべて、ReCap Pro を使用して取り込まれ、大規模で包括的な点群にコンパイルされました。

さらに、点群データを Revit に読み込ませ、構造用鋼から水力発電機に至るまで、ダムのあらゆる構成要素を含む 3D テクニカル モデルを作成しました。このモデルには、古いデータと新しいデータが合成されています。古い 2D 図面に最新の点群データがマッピングされているので、ダムの個々の要素だけでなく、それらがシステムとしてどのように組み合わされているのかも理解できます。

最終的には、このテクニカル モデルを InfraWorks に読み込ませ、放水量や発電量など、ダムの性能に関するデータをリアルタイムで追加できるようにする予定です。そうすれば、ダイナミックな仮想ダムを構築し、対処が必要なリスクや活用可能な可能性に気付くことができます。

Autodesk ReMake を使用して作成されたグレン キャニオン ダムのモデル

将来を予測

水利再生利用局は、グレン キャニオン ダムのダイナミックな 3D モデルを、スキル レベルにかかわらず、すべてのオペレーターと職員用のツールとして利用する予定です。「このモデルはさまざまな用途に使われることになるでしょう」と、ウィンスロー氏は述べています。この 3D モデルは、市民教育用の新しいツールとしても利用できます。たとえば、仮想ダムのビデオ ウォークスルーを作成すれば、安全性の点から訪問者が見学できない場所も紹介できます。同局は、ネバダ州のフーバー ダムやワシントン州のグランド クーリー ダムなどの他の施設についても、同様の 3D モデルを作成しようと計画しています。

何よりも重要なのは、このモデルが、将来起こりうる不確実性に備える上で、欠かせないツールになるということです。ウィンスロー氏は次のように語っています。「水量や気候が年ごとに異なるため、貯水池に流れ込む水量を正確に知ることができません。当局は常に、水を最適に供給できる方法を探り続けています。米国の未来に備えるためですが、私たちは今世紀だけでなく、その先まで見据えています。ダイナミック 3D モデルはさまざまな分野に利用できるツールであり、このモデルがあれば、長い年月を通じて施設の管理をより良く変えていくことができます」

何百万ものデータ点に基づく 3D モデルが、ダムとその周囲の正確なビジュアライゼーションを提供

LiDAR デバイスを使用して、広大なグレン キャニオン ダムの現場をキャプチャしているチーム メンバー。写真提供: 米国水利再生利用局/オートデスク

世界的な影響力を持つテクノロジ ツール

今日のダム管理事業者は、不確かな未来に備えなければなりません。それは、世界のどこであっても変わりません。現在、グレン キャニオンと同時代に建造されたダムを修復する取り組みが進められており、たとえば、アフリカのカリバ ダム(1959 年完成)、カリフォルニア州のオーロビル ダム(1968 年完成)、オーストラリアのバーデキン フォールズ ダム(1987 年完成)のほか、インドネシアやインド、アルメニア、ベトナムでは、ダム改築の国家プログラムも進行しています。3D モデルの製作プロセスは、グレン キャニオン ダムが先駆者となりました。ウィンスロー氏は、「世界中のダムの所有者と運営者が、当ダムの成果を参考に、施設の運用と管理を向上できれば幸いです」と語っています。

リアリティ キャプチャと 3D デジタル モデルは、ダイナミックなツールとして、グレン キャニオンをはじめとする老朽化したダムに(これには、重要なインフラの一部である発電装置、橋梁、放水路なども当然含まれます)、施設の視覚化、健全性の監視、将来の性能予測という成果をもたらします。それは、コスト効果に優れた、より適切なメンテナンスを実現し、結果としてインフラの長期的な維持を可能にします。

LiDAR デバイスを使用して、広大なグレン キャニオン ダムの現場をキャプチャしているチーム メンバー写真提供: 米国水利再生利用局/オートデスク