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米国テネシー州ナッシュビル、1965 年。幼くしてすでにプロのミュージシャンとして活躍していた Stephen Ambrose 少年は、13 歳のとき、パテやラジオの部品を使って、耳の穴に入れて音楽を聴くデバイスを作りました。それはクラシック音楽家だった父親から禁止されていたロック ミュージックを、こっそり聴くためでした。その後彼は、インイヤー モニタリングの技術を発明するに至ります。今日のカナル型イヤホンの前身となるものです。
ただ、カナル型イヤホンの使用で、聴力が低下するという問題がありました。その問題を解決すべく、Ambrose 氏と Asius Technologies 社は今、新たなサウンド革命を起こしつつあります。
Ambrose 氏が発明したインイヤー モニタリングの技術は、あらゆるスペクトルを高音質で再生するハイファイ サウンドをもたらしました。今となっては、この方式を採用しないライブ演奏や音響チェックはほとんどありません。まさに地球規模で音楽を聴く方法を変えたのです。
しかし Ambrose 氏は、思いもよらない問題に直面しました。彼が創り出した革命の産物、カナル型イヤホンにより
Ambrose 氏は聴力低下の問題に頭を悩ませました。そしてこの問題に取り組むべく、Asius Technologies 社を設立し、アメリカ国立科学財団の助成も得ることができました。そして彼は、問題解決の糸口が人間の耳の中にあることを発見したのです。
カナル型イヤホンは外耳道を密閉し、サウンドを空気の振動によって鼓膜に伝えます。
密閉により高い空気圧が鼓膜にかかると、鼓膜は自らを守るために強く緊張します。
緊張により、鼓膜が疲労するとともに、聞こえる音の質も低下します。
そのためリスナーは音楽のボリュームをあげます。すると鼓膜はますます緊張し、疲労します。まさに悪循環といえます。
この発見は、Ambrose 氏率いるチームを新たなアイデアへと導きます。Ambrose 氏は、ボリューム増大と聴力低下の悪循環を断ち切るソリューションを考案。カナル型イヤホンの中に、第二の合成鼓膜を組み込むという解決策を生み出したのです。この合成鼓膜の働きは以下のとおりです。
カナル型イヤホンは外耳道を密閉して、サウンドを空気の振動に変えます。
カナル型イヤホンのなかに合成鼓膜を組み込んで、空気の圧力を吸収させます。
リスナーの鼓膜は、もう緊張も疲労もしません。
ボリュームを上げずに済むので、鼓膜をリラックスした状態に保つことができます。
合成鼓膜のメリットは、聴力低下を防ぐことができるだけではありません。鼓膜がリラックスしていると、音質はぐっと高まり、ボリュームを上げなくても音は聞こえるのです。
Asius社 の新しいカナル型イヤホンなら、音楽がすみずみまでクリアーに聴こえます。
この新しいカナル型イヤホンのアイデアはどうして思いついたのかという質問に対して、Ambrose 氏は開発当初のインイヤー モニターに思いを馳せます。「Stevie Wonder のツアーには、道具をいっぱいに詰め込んだバッグを 21 個も抱えて同行していました。コンサート中にどんなことが起きても必ず対処し、イヤー モニターを微調整しながら音質を改善したのです」
今、Ambrose 氏とチームの仲間たちは、設計案の機械的特性をすばやくシミュレートするために、専門のソフトウェアと 3D プリンタを活用しています。0.5 マイクロメートルの単位でさまざまな箇所の素材を削り、極小レベルの微調整による効果を測定しています。必要なツールがまだ存在しないのなら、「私たちがこの素晴らしいソフトウェアを使って独自のツールを創り出します」と語ります。
プロトタイプから設計まで、かつては 1 ヶ月もかかっていたのに、今ではたったの 30 分でできるのです。
Asius 社のチームは、カナル型イヤホンによる聴力低下の問題の解決策を模索する中で、サウンドからエネルギーを得る新しい方法を発見しました。
直径およそ 300 マイクロメートルの小さな穴がひとつ開いた箱のなかにサウンドを注ぎ入れると、その穴から噴流が生じるのです。この噴流を活用する手立てがきっとあるはずです。実際、Asius 社は飛行機の動力として十分なエネルギーをこのデバイスから獲得することに成功しました。チームはこれを「改良シンセティック ジェット」と呼んでいます。
これは、Ambrose 氏が思い描く未来図のほんの一端にすぎません。彼は信じています。いつか、心臓の鼓動音をペースメーカーの動力源として活用できるようになることを。また、車のマフラーから採取された音でキャブレターに酸素を供給できることを。
Ambrose 氏は知っています。成功にたどり着くまでの道のりには、すべてを疑ってかかる人たちが待ち受けていることを。彼は当然この困難に取り組まなければなりません。しかし、それは決意をさらに強くするだけのことであって、決してマイナスになることはありません。実際、彼のインイヤー モニターは、私たちが今日知っているイヤホンの先駆けとなったのです。
「価値があることをしようとする時、妨害はつきものです」と彼は言います。「『ずいぶん高くつきますよ』とか、『こんなもの一体誰が使うのですか?』といった言葉に惑わされてはいけないのです」
ご存じですか? あなたのアイデアは、未来へ向かって飛翔する可能性があるのです。